おkと言えれば仲間

おk、なんて人生で使う日が来るなんて思ってもいたかったと、冬木はPCの前で思った。正確には思ってなかったわけではなく、その日まで使おうとも思っていたかった語彙を、ふと自らの指が丁寧にタイピングするところをみて、「思ってもなかった」ということ実…

花を買った。買った直後にもうすこし秋らしい色の花にすればよかったか?と考えもしたが、候補に入った秋らしい色のブーケは「カジュアルブーケ」として売られており、それらの花の名前が書いてなかった。決定打ではないものの、出来れば今日は自分が買った…

頭上には濃い青空がひろがっているが、視線を落として、向こうにみえるマンション群の上を眺めると、灰色の雲が覆うように、とてもゆっくりと流れていた。さらにその先、マンションとマンションの間からみえる、奥の風景からは太陽の光に透かされたクリーム…

目の前に広がる隅田川の川上、青い永代橋の向こうから小型船のエンジンの長い低音が聞こえ、その手前の緑色の隅田川大橋を走る車の音と、車両が通るたびに、橋の接続部分の上を過ぎる際に立てるカタンカタンという音が聞こえる。河川の遊歩道には、幅の狭い…

コーナン

雨上がりの日にクラッシックカーで2人、コーナンの開店をまっている。 ねえ、なんでそんなに突然木材が必要になったの?女は小さい声で問いたが、男は答えない。2人は手を握りあい、沈黙の中ながら力が強くなった。 すこし間があいて、男が語り出した。 「お…

ストロー

黒く固められ熱を集めるアスファルト道路の上に、透明なプラスチックの蓋が一つ落ちている。同じ口径のプラスチックカップは見当たらず、ただ蓋のみが、その中央に開けられた星形に黒いストローをさされたままで、不安げに転がっている。そのストローは上か…

小倉トーストあれこれ

なんとなく初めて入った喫茶店で、小倉トーストを注文して、それにナイフとフォークを添えられたら、誰しもそれらを駆使して小倉トーストを食べることになる。それはこの店のルールだ、と言わんばかりに机に置かれたのだし、もしくは最初はみんな手で食べて…

ラーメンズ・メモ3

笑いについて語るとき、誰もが使いたくなる言葉がある。緊張と緩和である。これは桂枝雀が著書で笑いの構造について定義した言葉で、緊張⇄緩和の運動が笑いになると説明される。例えば、お葬式の席で坊主が転ぶと面白い(緊張→緩和)とか、いないことに不安…

ラーメンズ・メモ2

では、ラーメンズは結果として誰を笑わせようとする試みなのか。 それは「観客」と「世界内の聞き手」の2者だと考えている。設計してそうなっているのか、結果として出来たものがそれなのかは分からないが、その2つの均衡こそがラーメンズの特異点なのだと思…

ラーメンズ・メモ1

小林賢太郎が作るコントに格別の贔屓をしてしまう人間、中でもラーメンズの復活を願う人間、は「ラーメンズのコント」と「それ以外の作品」に対して線を引いているように思う。少なくともわたしに限ってはそうである。 中学生くらいの時にネットで、東京03は…

何も考えないで料理をしたりして

こんなところでこんなことを書くのも大変なのですが、近頃わたしは「何も考えずに料理をする」ということにハマっております。 何も考えずに冷蔵庫を開け、何も考えずにもやしと豆腐を取り出し、何も考えずにもやしを洗い、豆腐の水を切り、なんて少しわたし…

椋鳥

黄色い嘴と爪、顔は白、頭頂から体にかけては湿った土のような色の椋鳥が3羽、足元の草むらをガサゴソと調べている。 そのうち2羽を追いかけあいっこをしており、忙しそうにしているが、残りの1羽は悠然とシロツメクサに食べられるものがないかと見回りを続…

隅田川

夏の空を取り込んだ川は、反射した空やビルを光で細切れにして映し出す。海へと流れ出す大きな波のほかに、風によって生まれた波が細かな凹凸を作り出している。近くの高速道路を走る車の音や、カモメの甲高い鳴き声、たまに魚が飛び跳ねる音が響いているが…

夢の審査会

「冷麺を出品しましょうよ!」 汗を額に滲ませながら、冷麺を口にした弟子がいつものように威勢よく声を張り上げた。私はこの中華屋の亭主で、この弟子はこの店の新メニューを出すとなると、いつも審査会に出品した方がいいと声をあげる。 「火鍋を出品しま…

サークル上のベンチ

仕事が近くで終わったからという理由でKは図書館の前の広場に、足を組んで座っていた。仕事は交通整理で、よく言えば市民を守る仕事、簡単に言えば肉体労働だった。その日も朝の6時から働き、15時まで汗を流したところだ。 日曜日ということもあり広場はたく…

『横山大ピンチ』について

乗代雄介さんのブログ『ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ』には現在727の文章が並んでいて、全てが面白い。 初期の創作『横山大ピンチ』について書く。 http://norishiro7.hatenablog.com/entry/20070413/1176533617 『横山大ピンチ』は、崖と崖の間を…

洗剤

少し悩んでオレンジジュースをパネルから選択すると、オレンジジュースとオレンジソーダと甘くないオレンジソーダが選択肢として現れた。オレンジジュースを再度選択して、3つの注ぎ口から指定された右の台座にグラスを置き、注ぐボタンを押した。 テーブル…

「スワン家の方へ」より

私の大叔母が祖母に与えたそんなひどい仕打、祖母がはじめからあきらめたかのように、祖父からリキュール・グラスを取り上げることができないで空しく懇願するその弱気の光景、それらはやがて見慣れるもので、はては平気で笑いながらながめ、今度はむしろ積…

断片的なものの夢の骨

幼少期から青年期にかけて、一本の道と共に生活していた。母の自転車に荷物として乗せられていた時(その道すがら転倒し、そこに刻まれた溝に伏した記憶もある)、小学生になり友と昆虫を積極的に捕獲していた時、中学生となり部活動によって走らさせれたそ…

手紙

まずはじめに、彼に手紙を書こうと思った。彼のことを思ってではない、僕は僕について彼を通して語りたいと思っている。 久しぶり、なんといったらいいのだろうか。この文章を今の年齢、今の文章能力で書こうと思ったのには、幾つかの理由がある。ひとつは、…

石像をたたいて次の部屋へ 1

呪いは魔法ではないため、やまびこの盾で防ぐことはできない。だが、呪いよけの盾があれば呪われることはない。また、おはらいの巻物を持っていれば、呪われても気にせず戦うことができる。攻撃力、防御力、HPのどれをとっても高くもなく、呪いさえなけれ…

宝石のように

改札を出ると遠くから騒音のような音楽のような、確かに音で持って人々が集まっているような音が聞こえた。次の路線への乗り換えのため人の流れに従って歩くと、二人のストリートミュージシャンがいた。二人は同じくらいの背丈の若い女性でギターを抱えて立…