サークル上のベンチ

仕事が近くで終わったからという理由でKは図書館の前の広場に、足を組んで座っていた。仕事は交通整理で、よく言えば市民を守る仕事、簡単に言えば肉体労働だった。その日も朝の6時から働き、15時まで汗を流したところだ。

日曜日ということもあり広場はたくさんの子どもたちで賑わっている。

象をイメージした遊具で遊ぶ子ども。道具も必要とせずにただ追いかけ回る子ども。いつの時代も変わらない、小学生の服装といった、スーパーの2階で買った洋服で揃った子どもたち。

Kは広場の中央に位置するサークル上のベンチに座り、その日の慰労会、といっても何も欲していないのでただ座って佇む、を行っていた。ベンチの反対側には3年生くらいの男の子が2人座って、声をあげそれぞれゲームをしている。

「お前それ反則っていったじゃん!」

「これはちげーよ、ふざんけんなよ!」

『悲しいけれど、この世に反則などないのだ...』俯いたままKは思った。この世に反則があったら、今の自分の生活はおかしい。これは反則だ、でも現実なのだ。だってこんなに毎日仕事して、なんもいいことないんだもん、いやだよ、えー困るなあ。

「わかったよ、じゃあこれは無しにしよ」

「それルールな」

『違う!止めるのだ...』顔をあげてKは思った。反則は反則のまま、なのだ。止めるのだ。現実にはルールなどないのだから。止めるのだ。

 

いつの間にか夕方になり、門限を守る子どもたちは、公園から姿を消していた。代わりに、昼間もいたであろう鳩が公園の中で存在感を放っていた。人間は近寄るとに何かをくれる可能性があると学習した鳩がKの周りに集まっていた。Kは突然、上に組んだ足の足首から先を動かし、鳩を威嚇した。

鳩は少しだけジャンプしたが、そんなに遠くには飛んでいかず、そのままKの周りを巡回していた。