小倉トーストあれこれ

なんとなく初めて入った喫茶店で、小倉トーストを注文して、それにナイフとフォークを添えられたら、誰しもそれらを駆使して小倉トーストを食べることになる。それはこの店のルールだ、と言わんばかりに机に置かれたのだし、もしくは最初はみんな手で食べていたが食べにくいと言う苦情がかなりあって、以後親切心でそのセットを付けることにしたのかもしれない。

私がコーヒーを飲む向かいで、亀山が小倉トーストを躍起になって細かいグリットに切り分けている。

「トーストを切り分けることがそもそもやったことがないよ」亀山はいった。白い皿にカトラリーが当たるカチャカチャとした音が聞こえる。

私はー、言いかけた途中で亀山がそれを遮る。ごめんその紙とってくれる?小豆が白い皿の縁の下に1粒転がっている。

テーブルに備えついた紙を渡すと、彼はフォークを左手の人差し指と親指だけで支えて、残りの指で器用に机を拭いた。

「それ、すごいね」感心して私はいった。

亀山は何を言われているかわからない顔をしているので、さらに補足した「いや、そのフォークを持ちながら紙で拭いて」

「そうでもないけどね、多分やればできるけど意識したことがないだけではないのかな?」亀山は続ける「別に2つのこと、全てが同時にできるわけでもないし、凄そうに見えているだけ」作業を黙々と続け、顔も下を向いたままに亀山は言う。

なんだか納得のいかない説明を受けた私はこれ以上続けても意味がないと感じたので、口をつぐんだ。